Liebesgeschichteの世界観を利用した、超軽量ファンフィクションサイト。
Liebes...本編を書く為の練習というスタンスでつらつらと書いていますが、
いつまで経っても腕が上達しないのは言うまでもありませんし、言っては駄目。
一応、本編とは無関係のはずです。


0423:待つわ


 じっと。
 アスカは待っていた。
 ここは第三新東京市。山の手にあるコンフォートマンションの最寄バス停の近くである。
 バス停のそばにある桜の老木。青々と茂る枝葉が作り出す木陰にアスカは腰を下ろしていた。
 どこからともなく吹いてきた蒼い風が,青い桜葉を揺らして,そしてアスカの髪を揺らす。
 髪は風にもてあそばれてさらさらと流れてたなびき,そしてまたもとある場所へと戻っていく。
 「それにしても」
 今までぴくりとも動かなかったアスカであるが,頭上から容赦なく降り注ぐ陽光に根負けしたかのように
顔をしかめ,脚をばたつかせた。
 「遅い」
 彼女が待っているのはシンジだった。食料品の買出しに市中まで出て行った彼が,バスで帰ってくるのを
待っていた。「恐らく重い荷物を持ってくるはずだから,アタシがいないと困るはず」と自分に言い聞かせて。
 「ふぅ・・・でも・・・なんていうか」
 空を見上げると,そこには白い雲が流れていた。
 ぼうっと見つめる瞳の先で,白雲は形をゆっくりと変えていき,そして最後には青空に吸い込まれていった。
 それを見送ってからアスカは,道の遥か先に広がる市中に目を向けた。
 NERVの関連施設や商業施設のガラスが,キラキラと夏の陽光を跳ね返して光っている。
 あの光の下のどこかに,シンジがいるのだろうか。
 「なんていうか・・・待っている時間って・・・いいなぁ・・・」
 彼女の視線の先で,揺らめく陽炎の中からバスが現れた。



1229: だってお茶は愛だもの


 じっと。
 シンジは大振りな急須を見つめていた。
 じっと。
 そんなシンジをミサトは見つめていた。
 しばし続く無音の時間。
 それに最初に耐え切れなくなったのは、ミサトだった。
「えーっと・・・シンちゃん、なにを見てるのかしら?」
   するとシンジはにっこりと笑って返す。
「アスカのお弁当のお茶を入れようと思って」
 ミサトは怪訝そうな顔でシンジに問いかける。
「えっと・・・そんなに見つめる意味があるの?」
 シンジは笑った。
「美味しく入れるには、温度と時間が大事なんですよ」
「ふーん・・・ビールならプシュ、ゴクッでいいのにねぇ」
 ゴクリと喉を鳴らしてビールを飲み干すミサト。
 だが。
 シンジからの返事は、ない。
「お茶ねぇ・・・それも愛ねぇ・・・」
 当然。
 シンジからの返事は、ない。
 リビングに流れる、香ばしい香りと無音の時間。



1229: クリスマスの朝に


 すがすがしく晴れ渡った朝。
 柔らかな春の朝とは違い、鮮烈な夏の朝とも違い、そして愁いを帯びた秋の朝とも違い。
 冷たさを湛えながらも、どこまでも高く透き通った朝。
 今日はクリスマスイブ。
 夜は鶏の丸焼きやらを準備して、みんなでパーティをすることになっている。
 赤色のみのオーナメントで飾られた生木のツリーも準備万端、リビングの隅に鎮座しており、後は電飾
に灯をともすだけである。
 本番は今宵。
 でも今日という特別な日を、一日中楽しみたいという思いが少女を早起きに駆り立てていた。
 みなを起こさないように、箒で静かに部屋を掃き清め、テーブルを拭き。
 楽しく掃除をしながら思い浮かべるのは、今日の楽しい時間。
 みんなとの楽しい時間。
 そしてそれ以上に、彼との楽しい時間。
 と。
 ガラガラと騒々しい音を立てて、寝ぼけ眼の少年がリビングに入ってきた。
「シンジ、メリークリスマス!」<br>  蜂蜜色の髪を揺らして、アスカは幸せを満面に湛えた笑みで、少年にそう言った。
「おはよう・・・メリークリスマス!」
 シンジも寝ぼけ眼をこすりながらも、アスカに笑顔を向けた。
「楽しい一日になりそうね」
「そうだね」
 二人は幸せそうに笑いあった。



1207: CROSS ROAD


 交差点に少女は、居た。
 今日、帰ってくるはずの彼女の想い人を求めて。
 頭上に容赦なく降り注ぐ真夏の陽光をものともせず、陽炎ゆらめく舗装路面の上に、居た。
 目の前には青緑色に光を放つ歩行者用信号と、揺らめく横断歩道と、渡り来る無数の歩行者と。
 少女の側へと渡り来る歩行者の群れの中に、想い人は、居ない。
 不満そうに悲しそうに寂しそうに。
 少女の視線は歩行者の上を滑らかに移動していく。
 ふぅ。
 小さくため息をついたその刹那。
 辺縁視野の中に、一人の少年が現れた。
 右手には大きな旅行用鞄を引きずり。
 左手には紙袋を手にして。
 時折恨めしそうに白銀の太陽に視線を向けながら。
 それを司会の端に捕らえると、少女の顔がぱぁっと明るくなる。
 されど駆け出す暇もあればこそ。
 信号の指示する交通方向は変化し、動き出した彼女の前を無常にも大型の輸送車が通り過ぎていった。
 蜂蜜色の長い髪の毛を揺らして、輸送車の起こした生暖かい風が巻き上がりそして消えていく。
 少年が泡のように消えているのではないかと目を凝らした少女の視線の向こうには、変わらぬ少年の姿。
 不安の表情がすぐに歓喜の微笑みに変わる。
 道を隔てた向こうに在る少女の姿に気がついた少年も喜びの笑みを浮かべた。
 紙袋をぶら提げた右手を大きく振って、少女に気がついたことを知らせようとする。
 優しさを湛えた笑顔に黒い髪が眩しく揺れる。
 少女はもどかしげに視線を歩行者用信号機へと向けた。
 ただひたすらに、赤い。
 少年も視線をちらりと歩行者用信号機へと向けた。
 やはり、赤い。
 がっかりした二人の間を、白い乗用車がのろのろと通り過ぎる。
 少年は車両用信号機へと視線を向けた。
 青。
 少女もほどなく視線を向けた。
 青。
 少女は不満そうに頬を小さく膨らませた。
 しかし頬を膨らませても信号機の指示色が変わらない事に思い至り、思いを別の事に向けた。
 自分にこの数週間で起きたこと。
 少年に起きたであろうこと。
 聞きたいことは山のように。そのために必要な時間も果てしなく。
 その為に必要な時間を思えば、信号機の変わる時間など。
 そう思うや否や、彼女の覚悟を、そして恐らくは少年の覚悟を裏切るかのように。
 対向車線の信号色が黄色に変わる。
 あと、少し。
 その思いを受けて少女の碧い視線は、黄色い光を放つ信号機へと向けられた。
 変わらない時間。
 長さに耐えかねて一瞬視線を逸らし、再び視線を受けるや否や。
 信号機は黄色から赤へと放つ光の色を変えた。
 少女は心の中で、カウントダウンを始めながら道を隔てた少年へと視線を向けた。
 少年も嬉しそうな笑みを浮かべて、信号機から少女へと視線を移動する。
 1。
 しばらく会えなかった二人の思いを載せて。
 2。
 二人の視線が絡み合い。
 「3!」
 二人はその言葉を声を上げて表し、同時に右の一歩を踏み出した。
 満面の笑みを浮かべて。
 お互いにかけたい言葉をひとつだけ選んで。
「おかえり」
「ただいま」



1206:Cute!

「シンちゃん、アスカちゃんのどこが好きなの?」
 たまにはシンジを困らせてやろうと思って放ったその言葉は、ミサトの予期どおりには働かなかった。
 シンジは皿を洗う手を止め、ミサトに笑顔を向けた。
「うん、アスカって可愛いですしね。それにああ見えて、とても優しいんですよ。うん。見た目よりも・・・・やっぱり
中身かなぁ。一緒に居て、楽しいんですよ」
 迷い無く淀み無くそう言いきったシンジの言葉に、ミサトはビールを喉へと流し込む単純作業をピタリと止めた。
そしてまぁるい目でシンジを見つめる。
「シンちゃん・・・日本人・・・よね?」
 それを聞いて、シンジは怪訝そうな表情を浮かべた。
「いやだなぁミサトさん、朝から飲みすぎておかしくなっちゃったんですか?」
「いやぁ、ごめんごめん。ちょぉっち飲みすぎたみたいね」
 ミサトは「アハハ」と乾いた笑いを顔に貼り付けながら、頭をかいて見せた。
「ミサトさん、もう少しお酒は控えたほうがいいですよ」
 苦笑を色濃く浮かべてシンジは、ミサトにそう言い、皿洗いの手をさらに速くする。
 その後ろ姿を見つめながらミサトは小さく呟いた。
「ふぅん・・・こぉんなに素直に気持ちを表してくれるとは、アスカが夢中になるわけねぇ」




1205:Happy Birthday!

 ちらちらとそぼ降る雪の中。
 アスカは暗い夜道をコンフォートマンションへと急いでいた。
「うーん、寒い寒い」
 アスカは白い指先をこすり合わせて微かな暖を取りながらそうつぶやいた。
手袋を忘れた今日に限って、昼過ぎから気温がグンと下がり雪模様であった。
「まぁったく・・・ついてないわね」
 もう一度そう自分の不遇を呪いながら、アスカはコンフォートマンションを見上げた。
葛城邸には今日も変わらず暖かい灯がともっていた。
「今日は誕生日だしね♪」
 アスカは嬉しそうにそう呟いてマンションの中に入っていった。
「シンジ、美味しい料理を作ってくれてるかしら?」
 アスカとシンジは去年の今頃、「同居人」という微妙な関係から「恋人」という関係に
お互いの在り方を変えていた。もっとも、これだけながく恋人関係でありながら、手を繋ぐ
のがやっと、キスなど到底まだという奥手な二人ではあったが・・・。
「ふふぅん♪ふふふん♪」
 昨年の誕生日料理を思い浮かべながら、アスカは葛城宅のエアロックが開くや否や室内
へと飛び込んだ。美味しそうな肉の焼ける香りがアスカの鼻腔をくすぐる。
 が。
 室内は真っ暗だった。
「へ?」
 間の抜けた声を上げてアスカは部屋の奥へと歩みを進める。
『ははーん。アタシを驚かせようって寸法ね』
 皆が暗闇の中で息を潜めている姿が脳裏に浮かぶ。
 アスカは足音を潜めて、息も潜めて。
 暗闇に包まれたリビングに向かい。
 手探りで照明のスイッチの突起を探り当て。
『パチリ』
 大きな音を立ててスイッチをON方向へと切り替える。
 プーンという軽い放電音とともに、リビングダイニングが明るさを取り戻した。
 ホワイトアウトした視界を取り戻すために軽く眉をひそめたアスカがその碧い眼を開くと。
 誰もいなかった。
 テーブルの上には、何もない。
「え・・・あれ?」
 脳裏で作り上げたイメージがガラガラと崩れて行くのを感じながら、アスカは今日二度目の
ほうけたような表情を浮かべた。確かにさっき、葛城邸に灯りがついているのを確認したはず
と記憶を反芻していると。
 一瞬にして再び暗闇が辺りを支配した。
「キャッ??」
 思わず悲鳴を上げて身を竦める暇もあればこそ。
 すぐに照明は元に戻り。
 そこには。
 皆がいた。
「へ?」
 自分でも間抜けな事だと思いながらも、またまたそんな言葉が漏れてしまう。
 そして見覚えのある面々の上に視線を滑らせていった。
 ミサト、レイ、ヒカリ、ユイ、キョウコ。皆が笑顔である。
 そしてオマケのように無表情で座っている、ゲンドウ。
 皆が一輪ずつバラの花を持っていた。
「お誕生日おめでとう」
 皆が口々にそう言いながら、アスカにバラを渡して行った。
「あ・・・ありがと」
 レイとヒカリはまだしも、ドイツにいるはずのキョウコ、アメリカにいるはずの碇夫妻がいる
事に驚きを隠せないまま、アスカは花を受け取る。
 そんなアスカの表情を見て、キョウコはしてやったりという笑顔を浮かべながらユイにウインク
してみせた。
「うーん、会議をすっぽかしてきたかいがあったわ」
 それを聞いてユイの顔に苦笑が浮かぶ。
「それは・・・まずいんじゃないのかしら」
「いいのいいの」
 ハタハタと手を振ってキョウコは否定して見せた。
「葛城さんなんか、飲みすぎた次の日は」
「それはだめです、ホントにだめです」
 年がいもなくキャイキャイとはしゃぐ三人組と、それを不思議そうに見つめる少女たち、無表情の
ゲンドウの上を何度か視線を滑らせてから。
 何かを探して、滑らせてから。
 アスカは、言いにくそうに口を開いた。
「えっと・・・シンジは?」
 するとそれを聞いてミサトはにっこりと笑った。
 ユイも笑った。
 キョウコも。
 レイもヒカリもリツコも。
 そしてゲンドウも唇の端で。
 彼らの笑顔の先は。
 アスカの後ろ。
 振り返るとそこには、腕いっぱいのバラの花束を抱えたシンジが立っていた。
「おめでとう、アスカ」
 シンジはこれ以上ないであろうといほどの優しい笑顔で、アスカに花束を手渡した。
「あ・・・ありがとう、シンジ」
 アスカはそう言って上目遣いでシンジを見つめる。
 見つめられたシンジは。
 一瞬真顔に戻ってから、再び笑った。
 つられてアスカも笑う。
「さてさてさてさて」
 二人の世界を突き崩して、ミサトがそう言いながら手をパンパンとたたいた。
「恋人どうしの見つめ合いは放っておいて、鶏の丸焼きたべるわよぉ」
 それを合図にしたかのように。
 呪縛がとかれたかのように皆が動き出し。
 食卓の準備をし始めた。
 どこからともなく手品のように、数々の料理が現れてくる。
 それをぼうっと観ていたアスカに、ミサトが声をかけた。
「ほらアスカ、お風呂場のバケツにバラの花束をつっこんどきなさいよ」」
「あ・・・うん」
 はじかれたように動き出すアスカ。
 ミサトは今度はシンジにも声をかけた。
「ほら、シンちゃんも手伝ってあげて」
「あ、はい」
 シンジは先にたって風呂場へと向かい、バケツにいくらか水を張った。
「ありがと・・・」
 アスカはバケツにバラの花束を入れてから、シンジに向き直った。
 狭いバスルームで、二人が向かい合う。
「その・・・」
 とても近くにいるシンジを感じて、アスカの胸が高鳴った。
 胸の拍動がシンジに聞こえそうな気がして。
 その羞恥がまた拍動を高鳴らせ。
 すぐそばにいるアスカの可愛さに胸を躍らせて。
 アスカの瞳から目を離せずに。
「ありがと」
 アスカがシンジの瞳を見ながらそう言う。
「おめでと、アスカ」
 少し見下ろす形になりながら、シンジがそう言う。
 バスルームの外で皆がわいわいと騒いでいる声が聞こえる。
「えっと・・・」
 シンジが言う。
「あのね・・・」
 アスカが言う。
 外の喧騒がすぅっと遠くなっていき。
 二人の視線が絡み合い。
 アスカが瞳を閉じ。
 シンジがごくりと唾を飲み。
 少女は少し背伸びをして。
 少年は身をかがめ。
 肌と肌が触れる音なき音を最後に。
 二人の周りから全ての音が消えた。
 どちらからともなく握った手に、すっと力がこもる。

 外は白い雪景色。
 静かな夜は、二人の記念日になった。
 
 Happy Birthday!



1202:She is so cute!

「どう?シンジ。新しいスカート買ってきたんだけど」
 コンフォートマンションのリビングルームで、アスカは買ってきたばかりのワンピース姿でシンジの前にすっくと
立ちそう言った。彼女が身にまとっているのは水のような透明感のある空色のワンピース。
「えぇっと・・・」
 一瞬言葉に詰まったシンジの前で、アスカは答えを催促するかのようにクルリと回って見せた。
 爽やかな初夏の風とは異なる、甘いやわらかい風がふぅわりと巻き起こり、シャンプーの甘い香りがシンジの
鼻腔をくすぐるように流れてくる。
「えぇっと・・・その」
 何と言ったものかとしばらく考えていたシンジであったが、すぐに顔を上げて、優しい笑いをアスカに向けた。
「似合ってるよ。可愛い。」
 言いたい言葉はただ一つ。
「ありがと」
 アスカはにっこりと笑った。
 聞きたい言葉もただ一つ。


(Inspired by this web site)

1127:Special

「ふえー・・・引越し準備ってめんどくさいわね・・・」
 積み上げられた本や雑貨品の山の中に座りながら、ひとりアスカはそう呟いた。
 今日は蜂蜜色の髪を後頭部で束ねてポニーテールにしていた。作業に差し障るからであろうか。
 アスカ達がコンフォートマンションを引き払うその日まで、あと7日。
 それまでにこの荷物の山を整理してしまわなければならない。
「7日か・・・」
 残り日数を考えながら室内に視線をめぐらせて、アスカはもう一度、ため息を吐いた。
 ため息が無人の室内にゆっくりと染み渡っていく。
「猶予なし待ったなしね、これは」
 確かに残り7日という事を考えると、ゆっくりしている暇はなさそうな散らかり様であった。
「さてと・・・がんばりましょうかね」
 再び手を動かし始めたアスカだが、ひとつの封筒を手にしてその動きが止まる。
 ゴソゴソと中を確認すると、そこには写真が沢山入っていた。
 レイやヒカリ、他の学校の友達、ミサト、そしてもちろんアスカとシンジ。
 さまざまな瞬間の彼らが、色褪せる事無くそこに、いた。
 封筒の表を見てみると、『写真あれこれ』とシンジの字で書かれていた。
「そっか・・・シンジの・・・か」
 アスカは封筒を置き、再び写真をめくっていく。浜辺、山、喫茶店、空港、ドイツの街中・・・・
ありとあらゆるところに昔の彼らが現れては去っていく。
「懐かしいわね・・・」
 すると。
 一枚だけ、トレーシングペーパーに丁寧に包まれた写真があった。
「何かしら?」
 蔦模様の透かしの入った薄紙を捲っていくと。
 そこには爽やかな、満面の笑みを浮かべたアスカがいた。
「あ・・・」
 今と変わらないような、今よりも少し若いようなアスカがそこにいた。贔屓目を差し引いても、とても
可愛らしく写っている写真であった。だからこそ、シンジは綺麗に保管していたのであろうか。
「もう・・・シンジったら」
 アスカは小さな微笑を浮かべて、写真と包み紙を抱きしめた。
 アスカの頬を涙が一筋流れる。
「・・・・・・」
 言葉にならないアスカの言葉を飲み込んで、静寂はより深まり。
 胸の中でもみくちゃになった紙がカサリと泣いた。




1120:True is that ...

「あーついてないったら、ついてない!」
 人の殆ど載っていない第三新東京市営バスの座席に腰掛けながら、アスカは頬をぷぅっと膨らませ
てそうひとり呟いた。
 窓の外に目を向けると、黒い闇をバックに、窓ガラスの上を白く輝く線が流れていく。
 外は土砂降りだった。
「はぁ」
 アスカはまた嘆息する。傘を忘れてきた上に、こんなときに限って携帯電話の電池が切れてしまい、
家に連絡してシンジに迎えに来てもらう事もできない。
「むぅはぁ・・・・ダッシュするしかないわね」
 制服にローファーという走りにくい姿であることすらをも呪いながら、アスカは席を立ち上がり、吊り手を
掴みながらバス内をゆっくりと前に向かう。
 ちょうど最前部に到着するのとほぼ同時に、バスは鈍い制動音を響かせながら停車した。
 バスカードをカード読み取り機に翳して料金を支払ってから、アスカは精一杯の作り笑顔を初老の運転手
に向けた。
「ありがとね」
 これからの雨中のダッシュを思えば、笑顔を浮かべている場合ではないのだが、そうでもしないと気持ち
が奮い立たない。
「へぇぇ・・・」
 嘆息しながらタラップを降りて黒く塗れたアスファルトに靴底をコツリとおろすと。
 すっとその頭上に傘がさしかけられた。
 さしかけたのは、シンジだった。
「お帰り、アスカ」
 にっこり笑ってシンジは、大振りの傘を、アスカにもっとかかるように寄せてくれる。
「えっと・・・」
 びっくりした表情を隠そうともせず、アスカはシンジにそう言った。
「なんで?」
 陳腐な質問だと自分でも思いながら、アスカはそう言葉を続けた。
 シンジはコンフォートマンションへと向かうようにアスカを促して自分も歩みを進めながら、アスカに答える。
「うーん、なんとなく、アスカが帰ってきそうな気がしたんだ。それで出てきたら、丁度バスが来たんだ」
 シンジはアスカに向かって笑顔を向ける。
「ラッキーだったね、アスカ」
「そう・・・なんだ。ありがとね、シンジ」
 アスカはそうシンジに言ってから、シンジの足元に視線を向ける。
 『出てきてすぐ』というにはあまりにも、ズボンの裾には雨の跳ねっかえりが染み付いていた。
「もう・・・バカ」
 その呟きを洗い流してしまうほどに、二人を包んだ傘に雨が降り注いだ。




1116:一瞬の煌きが一生を照らす

 第三新東京市内の中学校の屋上。
 立ち入り禁止のはずのその場所に、制服姿のアスカとレイが仲良く座っていた。
 二人の膝の上には、互いのお弁当が広げられている。
「でもらしくないわよね」
 玉子焼きを箸でつまんだまま、レイがそうひとりごちた。
「何が?」
 ペットボトルのお茶を口に運ぶ手を止めながら、アスカ。
 レイは玉子焼きを弁当箱へと一度戻してから言葉を続けた。
「碇くんって・・・いい子だけど・・・将来苦労しそうじゃない?なんていうのかなぁ・・・いい人すぎて」
 それを聞いて、アスカは苦笑するしかない。苦笑しながらお茶を一口、口に含んだ。
「アスカがそういう選択をするのって、意外だなぁ」
「うーん・・・まぁ、いざとなったらアタシが喰わせていけばいいのよ」
 アスカの言葉に、レイも苦笑する。
「アスカ、随分と男らしい発言で」
「まぁ・・・ね。でもね・・・・」
 アスカは言葉を止めた。脳裏にパッと浮かぶ、シンジの何の曇りも無い純粋な笑顔。
「でもね・・・」
 アスカは逡巡してから言葉を続けた。
「あの笑顔、一瞬の笑顔があれば良いのよ、アタシは」
「ふーん・・・ごちそうさま」
 あきれた表情を浮かべるレイと、幸せそうなアスカの遥か上で、太陽が綺羅と輝いた。




(元ネタ:papa t○ld me)

1116:今日の料理はお好き?

あるシトシトと雨が降る土曜日。
 アスカとシンジの二人は、昼食の並ぶテーブルに二人向かい合って腰を下ろしていた。
 今日の料理当番はアスカであり、あまり料理の得意な方ではないアスカは、食材との暫時の
死闘を繰り広げた末に、生クリームを使ったスクランブルエッグ、ルッコラやトマトとモッツアレラを使っ
たサラダ、そしてフレンチトーストをテーブル上に整列させる事に成功した。お世辞にも手が掛
かったとは言えない内容ではある。
 それを恥じたのかアスカは、申し訳無さそうな顔でシンジのマグカップにハーブティーを注いだ。
立ち上る湯気と共に、ミントの爽やかな香りが二人の間に立ち込めていく。
「えっと・・・ごめんね、こんな昼食で」
 自分のマグにもミントティーを注ぎながらそう言うアスカにシンジは不思議そうな顔を向けた。
「え?なんで?」
「だって・・・サラダなんてちぎって盛っただけだし」
 それを聞いてシンジは笑った。
「そんなこと無いよ。だってここにどーんと乗っているのは、世界中でたった一つだけしかない、
アスカが作ってくれた料理だもん。お金出したって食べられないよ」
 そう言うとシンジは、「いただきます」と手を合わせてからフォークを右手に取り、パクパクとス
クランブルエッグをかきこんだ。
 そんなシンジの姿を見て、アスカは胸に暖かい幸せを感じた。



(元ネタ:papa t○ld me)

1113: GOOD DAY!

「う・・・惣流やで」
 遥か向こうから歩いてくる蜂蜜色の髪をした少女を目ざとく見つけて、鈴原トウジは嫌そうな顔で呟いた。
 彼がそんな渋い顔をするのも無理は無い。この数日、惣流・アスカ・ラングレーの機嫌は最悪であった。
どんな事にでも不機嫌さ全開で対応するその様子は、まさに汎用二足歩行口撃機。
 ところが。
「おっはよー」
 今日のアスカは何かが違った。
「鈴原、今日もいつものジャージなわけ?」
「は、はぁ・・・そうですけど」
 あまりに機嫌の良いアスカに、トウジは似非くさい関西弁を口にする余裕も無くそう返答した。
「たまにはファッションに気を使わないと、ヒカリに嫌われるわよ」
 アスカはそう言うと、ニコニコと笑みを浮かべたままトウジの前を通り過ぎていった。
「えー・・・あー・・・そうですね」
 何がおきたのか全く判らないトウジに向かって、アスカの後からやってきたヒカリが苦笑を浮かべながら声をかける。
「碇君の風邪が治ったみたいよ」
「・・・・・ほう。だからなんやねん」
 眉を潜めて怪訝そうな表情を浮かべるトウジの遥か先。
 アスカは青空を見上げてニッコリと笑った。
「うーん、素敵な一日!」


(元ネタ:papa told me 11巻)

1107:プリン
「ははーん、プリンが食べたいのね。駄目なものは、駄目よん」
 新東京市でシェアNO.1のコンビニエンスストア「イレブン・セブン」のデザートコーナー。
 このコンビニのデザートでの人気ラインである「パティシエの隠し味」の焼きプリンをじっと見つめるアスカに、
ミサトがキッパリとそう言い放つ。
 するとアスカがプーと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「べ、別に食べたくないもん」
 するとミサトがにやついた笑みを浮かべてアスカの頭をポンポンと二回叩いた。
「そりゃねぇ。デザート食べ過ぎて太ったら愛しのシンちゃんに嫌われるもんねぇ」
「べべべつに、そそそそそんな」
 アスカはミサトの言葉に慌てて辺りを見回す。
 シンジは雑誌コーナーで何やら一心不乱に読みふけっているようである。
 目の端でそれを確認してからアスカはミサトの袖を引っ張り、声を潜めて耳打ちをする。
『聞こえたらどうすんのよ』
『だいじょぶよー・・・たぶん・・・』
『もう・・・聞こえたら責任取ってもらうわよ』
 それを聞いてミサトは苦笑した。
「はいはい」
 聞こえた責任を取るとはどうしたらいいのだろうと思いながらミサトはレジで会計を済ませて外に出た。
市街地の夜空でも、幾つかの星が瞬いているのが見える。
「あれ?シンちゃんは?」
 一足先に外に出ていたアスカと二人、店内を見ると、シンジもレジで支払いをしていた。
「雑誌でも買ったのかしら」
 アスカはそう呟いた。
 程なくしてシンジがレジ袋を片手に出てくる。
「ごめん、待った?」
「まーあいいんじゃない?」
 ミサトはシンジのレジ袋に視線を飛ばしてから唇に笑みを浮かべてそう言い、コンフォートマンション
へと向かってぷらぷらと歩き始める。
「シンジ、なに買って来たのよ?」
 アスカにそう聞かれてシンジは嬉しそうに袋を広げて見せた。
「ほら、プリン」
「あ」
 アスカは絶句する。中にあったのは、さっき眺めていた焼きプリン二つ。
「シンジ、えらい!」
 大喜びするアスカだが、あるひとつの事実に思い至り、少し頬を赤くした。もっとも暗闇のせいで
誰も気がつきはしなかったが。
 アスカは歩きながら、遠慮がちにシンジに言葉をかける。
「えっと・・・その・・・アタシとミサトの話、聞いてたの?」
「あ・・・うん。プリン食べたいって言ってたよね?」
 笑いながらシンジ。
「えっと・・・それだけ?」
「あ・・・うん。声が大きかったから、雑誌読んでてもそこだけは聞こえたんだ」
「そう、それなら、いいんだけどね」
 肝心の所は聞かれていないようだと感じ、アスカの顔にホッとした安堵の色が広がった。
「ま、とにかくありがとね、シンジ」
「いや、僕も食べたかったし」
「シンジにしては気がきくわね」
 そう言ってからアスカは数歩先を歩くミサトに駆け寄り、嬉しそうな笑みを向けた。
「やーっぱシンジはミサトより気が利くわねー」
 苦笑するミサト。
 その後ろで、シンジは苦笑いしながら小さく呟いた。
「言えないよなぁ・・・」
 そんな彼の呟きは夜の闇に蕩けて消えた。


0411:雨と傘と二人の距離と
「雨っていやよねぇ・・・」
「そうだね」
 アスカの言葉にシンジは同意した。スーパーへ買い物に行った帰りに雨に降られ、
シンジが持っていた折り畳み傘の中に、アスカとシンジ、二人は入っていた。
「まぁったく・・・靴も服も濡れるし、サイアク!」
 それを聞いてシンジはアスカの肩を見た。雨で少し濡れている。それを見てシンジは
口を開いた。
「アスカ、もうちょっと寄ったら?」
 ただアスカを心配するだけの言葉であったのだが、アスカは頬を朱に染める。
そして少しの間をおいて、ツツッとほんの少しだけシンジとの距離を狭めた。
歩く時に揺れる手と手が触れるか触れないかまでの距離に。
 表情を全く帰る事無く歩いていくシンジの横で、アスカは赤い頬でぎこちなく呟いた。
「雨も・・・まぁいいかも」
 傘の上を跳ねる雨粒の音で、その言葉はどこへともなく消え去っていった。

0409:卵料理はお好き?
  あるシトシトと雨が降る土曜日。
 アスカとシンジの二人は、昼食の並ぶテーブルに二人向かい合って腰を下ろしていた。
 今日の料理当番はアスカであり、あまり料理の得意な方ではないアスカは、スクランブル
やらの簡単な料理を作っていた。
どちらからともなく手を合わせ、
「いただきまぁす」
 二人は声をシンクロさせた。
 シンジは箸を手にとり、湯気の上がるスクランブルエッグを小皿に取り分けた。
 そしてフルフルとした半熟のそれを口に運ぶ。
アスカは自分の箸を手にするでもなく、じぃっとその様子を眺めている。
その視線に気が付く事もなくシンジは、もぐもぐと口を動かし続けた。
『シンジ、美味しいっていってくれるかしら・・・』
 アスカは小さな胸をドキドキさせながら、シンジの言葉を待つ。
「あっ?」
 不意にシンジは驚きの表情を浮かべて、口に手のひらを当てる。
 その様子を見て、アスカは喜びの表情を浮かべた。
「美味しい?」
期待をその瞳に深くたたえてシンジの顔を見つめるアスカには気づかず、
シンジは手のひらを口から離す。
「卵の・・・殻」
 その言葉を聞いてアスカの期待は一気にしぼみ、がっくりと肩を落とす。
「むふぅ・・・ごめん・・・」
 だがシンジの次の一言は。
「でもアスカ、料理、すごく上手になったね。美味しいよ」
「ホント?ホント?」
「う、うん」
 喜色満面になり、テーブルの対面から身を乗り出してくるアスカにシンジは
驚きを感じて身を引きながらもそう答えた。
 その答えにアスカは心の底からの笑みを浮かべ、小さくガッツポーズをした。
 それから小さく鼻歌なぞ歌いながら、自分も昼食に箸をつける。
 雨降りの嫌な一日だったが、この瞬間、アスカにとっては幸せな日になった。



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